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むかしばなし

その他

20年以上前のはなし。私が幼稚園に通っていた頃のはなし。

私が通っていた幼稚園はミッション系の幼稚園で、お祈りの時間が1日に何度かあった。月曜日には先生が「昨日教会に行ったひとはいますか?」って聞いて、何人かが手をあげた。その子たちが本当に教会に行っていたのかどうかは知らないけど、当時私はみんなちゃんと教会に行っているのに私は行っていない……と思ってとても焦ったし、なんだか悪いことをしている気分になっていた。
恐らく、同年代の子供たちと比べて大人しい子供たちが集まっていたんじゃないかと思う。先生が話し始めたらおしゃべりをやめましょう、とか、お祈りの時間は目をつぶって「アーメン」とか、そういうのがきちんと出来る園児しかいなかった。
だから小学校にあがったとき、あまりの騒ぎにぎょっとした。先生が話してるのに誰かが関係ないことを話したり、大声を上げたり、うろうろしたり、そういったことがどうして起こるのか理解できなかった。とんでもない場所に来てしまったと思った。

 

幼稚園の頃の話に戻る。
ひとクラス何人ぐらいの園児がいたか、なんて覚えていないんだけど、そのなかでひとりだけ、一風変わった男の子がいた。子供心におかしな子だなと思っていた。いま考えれば普通の幼稚園児なんだけど、なんせ大人しい園児ばかりの環境にいたので、明らかに浮いていた。
名前は仮にタクミくんとしよう。

タクミくんはクレヨンしんちゃんの真似をする男の子だった。
私の通っていた幼稚園ではクレヨンしんちゃんを観るのは禁止されていた。幼稚園側もはっきりと「禁止です」とは言えなかっただろうから、子供にあまりいい影響はありません、とかそういった濁し方をしたとは思うけど、クレヨンしんちゃんを観ている子は少なかった。観ている子も、親から「外でしんちゃんの真似をしてはいけない」とか言われていたのかな。あの独特な喋り方をする子はタクミくんの他にいなかった。いまは知らないけど(ていうかクレヨンしんちゃんを放送してるのかさえ知らないけど)当時は「クレヨンしんちゃんが子供に悪影響を及ぼす」と、かなり問題になっていたはずだ。
タクミくんがクレヨンしんちゃんの真似をすると、半分ぐらいの子が笑った。でもそうすると先生がめちゃくちゃ嫌な顔をすることに私は気づいていた。怒っているというかうんざりしているというか、普段は優しくてニコニコしていて大好きな先生なのに、そのときだけすごい顔をするからすごく怖かった。

 

ある日、タクミくんがセロテープ台を落として壊してしまった。
あれはどんな材質でできていたんだろう。すっごく重くて、子供はいじっちゃいけません、みたいなルールがあったんだと思う。ここに置いておくので、使う分だけ持っていきましょう、というような。それをタクミくんが持ち上げた。「オラだって持てるぞ~」とかなんとか言ったんじゃないかな。で、想像以上に重くて落としてしまった。で、割れた。外側は恐らくプラスチックなんだけど、下の方は重しで石?というかセメント?みたいなのが入ってたんだと思う。所々粉々になっていて、見るからに「ヤバイ」状況だった。

タクミくんは大泣きして謝って、先生は怒鳴った。先生が大きな声で怒ったのを初めて見た。先生はひとしきり怒ったあと、タクミくんに直すよう命じた。タクミくんは泣きながらセロテープをベタベタに巻きつけてなんとか形を戻そうとした。しかしそんなもので元に戻るわけがない。先生はそれを取り上げて、セロテープをベリベリ剥がして「こんな汚いのもう使えません」と言って、またタクミくんの前に壊れたセロテープ台を置いた。タクミくんはまた大泣きした。それを何度も繰り返した。

私はそれをなぜか近くで見ていて、なんだかもうドキドキしていた。先生はここぞとばかりに、執拗にいたぶっていたのだ。いたぶる、なんて当時はわからなかったけど、先生は鬱憤を晴らすかのようにタクミくんに接していて、私はただただ、どうしてどうしてってそればかり思っていた。

いつも下品なことを言って先生を困らせてばかりいるタクミくんを、私は好きではなかったけど、そのときの先生を見て、そう、たぶん、私は幻滅したのだった。