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ひとりのユートピア

「学生時代、クラスの大人しめなグループのなかで一番話しかけにくいタイプの女子だったでしょ」

そんなことを聞かれたのはたしか半年ほど前のこと。出会って間もない異性に聞くこととして間違っているような気がするし、話しかけにくいかどうかは私が判断することではないと思ったけど、言いたいことはなんとなく理解した。

「中学まではそうだった。高校のときは違うかな」

「意外。あ、女子校?」

「共学だけど、高校ではグループに所属していなかったから」

「どういうこと?」「ひとりで行動してた」「いじめ?」「まさか」

 

高校生の頃、私は見事に友達がいなかった。高2のときは少し仲良くしていた子がいた。高3のときはそもそもあまり学校に行っていないのと、受験だなんだとそれどころじゃなかったのであまり記憶がない。ただ、高1に関しては本当に一人だった。移動教室も一人。お弁当も一人。体育祭も一人。文化祭も一人。咳をしても一人。

部活の仲間は学年に17、8人いたから何人かは同じクラスだったけど、部活中はわいわいやっていても教室に行くとまったく口をきかなかった。彼女たちは「友達」ではなく「仲間」だった。その差は大きい。高校卒業から10年たつ。部活の仲間とは卒業以来毎年、年に数回飲みに行くほど交流があるが、それ以外に連絡をとっている子はいない。

 

問題は2つある。

1つめは、当時私がいじめられていたわけではないということ。

2つめは、一人で行動することに特にストレスを感じていなかったということ。

いじめられていたのであれば話は早かった。そして幾分健全だった。いじめれてたんだ、可哀想に。しかし私はいじめられていたわけではない。部活の朝練で喋って、放課後の部活まで誰とも話さないことなんてざらにあったけど、無視されていたとかそういったことではない。私も相手も用事がなかっただけだし、話しかければ誰でも(ギョッとした顔はしても)答えてくれた。

私はあの頃、一人でいることは全然辛くなかった。不便だなと思うことは何度かあったけど、寂しかったり惨めだったりしたことはない。どうでもよかった。小中学校の9年間で感じていた違和感やストレスを思い出すとそれだけでもう限界で、それなら一人で生活していた方がずっと楽だと思った。

学生は群れなければ厳しいことが多くて、群れる対象にストレスを感じることはあっても「じゃぁ群れるのやーめた!ソロ活動始めよう!」とはなかなか踏み出せない。

というか、それをやってはいけないのだ。たぶん。

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高校時代を思い出そうとしたときいつも一番最初に脳裏に浮かぶ光景がある。授業中の居眠りから目が覚めたとき、全開にされた窓から心地よい風が吹き込んできて、薄汚いカーテンがぶわりと広がっていて、窓の外は雲ひとつない快晴で、隣のクラスからは溌剌とした女性教師の声が聞こえてきて、机の上に広げたノートは真っ白で、床に落ちた教科書を拾い上げたあのひととき。何の授業かは覚えていないけどなぜか教室の大半が突っ伏して寝ていて、その様子を眺めながら「のどかだなぁ」と頬杖をつく。

平和で、自由で、私を窮屈にしない、大切でちっぽけな世界。

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